海辺の風景-磯津にて-8月11日
ある日の昼下がり楠から磯津へと車を走らせてみました。ここは四日市南部、市町村合併で四日市市の一部となった楠町から、鈴鹿川河口に向けての海岸線です。先ほど七年ぶりにアカウミガメが上陸したという吉崎海岸があります。その端っこが磯津漁港であり、北に接した集落一帯が塩浜町、通称「磯津」地区となります。そうです、四日市公害訴訟の原告となった患者さんたちの居住地です。判決から38年。「こちら市民塾」では№9で瀬尾さんのお墓参りをお伝えしましたが、四日市市の中では鈴鹿川を挟んで市街地とは隔たった集落となっています。
この日も猛暑の日差しが厳しかったのですが、懐かしい風景に出会い車を停めてみました。堤防脇の広場で女性が三人、作業中でした。何枚も並ぶ四角い網の上に小魚を広げている最中です。厚かましくも近寄って「ジャコですか」と問うと「チリメンです」との答え。いろいろ聞いてみると白子(しろこ・鈴鹿市)で水揚げされ、ここで塩ゆでして天日干し。一日4,5時間干して出荷。6月頃から夏場が最盛期。「ここのは塩気が少なくしてあるから、さっぱりしておいしいよ」「一口味見してみたら」。そのお言葉をまるで待っていたかのように「それじゃ遠慮なく」とひとつまみ。頬張って噛みしめてみるとなるほど塩味は薄めで、しんなりとした歯ごたえが海の香りを口中に広げてくれるのです。炎天下で働く女性たちの汗が報われることを願いながら、ふと見上げると民家の向こうにコンビナートの煙突がのぞいているのでした。
磯津はもともと漁師町でこの近辺には何棟もの「なや」が建っています。しかし、今ではここで働く人たちも漁港のにぎわいもめっきり少なくなって「公害のまち」が残ってしまったようですが、そこに住む人たちが変わらぬ生活を続けていてくれる風景に、幾ばくかの安らぎは感じるひとときでした。